おいしいお茶ってナニ?
ズバリ、その答えは「嗜好品だから好みの問題」。これはこれで正解なのですが、それでは「うまい」「おいしくない」の尺度はなくなり、品質の差、すなわち「味の良し悪し」はなくなってしまいます。実際には、ほとんどすべてのもので良し悪しはあります。
お茶屋には、良いお茶(今回は煎茶)とはどのようなものかを見極める力が求められます。各々のお店は、その力で自分の納得のいくお茶をリーズナブルな価格で販売するよう心がけています。
欠点茶ってナニ?
欠点茶の要因は、荒茶の製造段階で出てくることが多いのです。そもそも、欠点のあるお茶を作る生産者はいません。売り物にならないものを作る人はいないでしょう。
ですので、そのような失敗の原因が何かはそのことを研究している方に聞くしかありません。そこで、令和4年11月15日に国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門上級研究員である水上裕造博士(農学)を講師に迎え、東京茶業会館にて「煎茶の製造過程で生じる欠点茶とその製造要因について」と題して、講義と実践を行いました。
なんだか難しくて読みたくないと思わずに気楽に読んでください。飛ばし飛ばしでもかまいません。簡単にいえば、「うまい煎茶とは何なのか」「どういうふうに作ればよいのか」ということです。
良い荒茶を作るには
茶生産農家には、茶畑の維持管理と摘採後の素早い荒茶作りが求められます。
まず、製茶原料となる生葉・原葉(げんよう)は、土の良し悪しが大きく左右します。気象条件も影響します。寒暖の差があることと、川霧がかかる場所が良いとされています。茶畑の管理、特に秋から春にかけての施肥も重要です。これは長期の仕事です。
そして、新茶期には最良な状態での摘採が求められます。1日でも遅れると硬葉化することがあります。いつ摘採するかは気象条件により大きく変化する難しいものです。ここが大きな勝負どころです。(これは詳しい方に稿を改め書いていただけたらと考えていますが、あまりに専門的になりすぎるので難しいかなとも考えています)
次に、摘採した茶葉を冷蔵コンテナに入れるのですが、保存する時間と保存状態が大切になります。これは短期決戦です。
荒茶の製造過程に生じる欠点
さて、いよいよここから荒茶作りが始まります。給葉→蒸し→粗揉→揉捻→中揉→精揉という工程を踏みます。いずれかの製造過程の中で問題があると、①~⑥の欠点が出てしまいます。
①萎凋香(いちょうか)
②葉傷み臭
③むれ臭
④青臭
⑤煙臭
⑥変質臭
①については香りと記している通り、必ずしも欠点とはいえません。多くの種類の中国茶は萎凋しています。萎凋香は爽快な香りや甘い香りがあるので、煎茶にブレンドしているものもあります。ただ、萎凋の味が強いと煎茶としてはそぐわないと感じることは確かです。
②摘採時に茶葉を傷つけたり、生葉コンテナで積み重ねすぎたり、給葉の際のかきならしで葉が傷つくなどの原因によるものです。鼻に抜ける香りが弱くなり、水色が赤みを帯びることが特徴です。ただし、見極めるには技量が必要です。赤みを帯びているのが葉傷みです。実際は、もう少し黒みを帯びています。
③生葉コンテナで保管中、茶葉の温度が高くなると生じます。また、蒸機において茶葉が蒸気にふれる時間が長くなり、その量が多くなると生じます。茶ドリンクに似た香りがします。蒸れ臭を判断するのは難しいといわれていますが、主な成分のメチオナールが茶の香りをマスクして、鼻に抜ける香りが非常に弱くなります。これも見極める技量が必要です。
④生臭い青臭い香りがあります。主な原因は蒸しの工程で蒸気量、蒸気圧の不足によっておきます。油臭と間違えることがあります。
⑤茶の粉が燃え、その煙が茶葉に移ることでおきます。焦げ臭い香りと味がします。冷めるととてもわかりやすいです。
⑥茶葉の乾燥不足、吸湿、保存状態が悪いのが原因です。味、水色に反映され、非常にわかりやすいです。変質して赤くなっているのがわかると思います。
厳しい茶業界
茶生産農家の経営環境は厳しいものがあります。茶の販売価格は伸びずに廃業する茶農家も出てきています。ペットボトル用茶葉を販売するだけでは生活できません。今後もこの傾向は変わらないと思います。特に良いお茶が取れる中山間部に顕著です。
このような影響は茶問屋や小売店にも影響を与え、うまいお茶がなくなり、無難なつまらないお茶だけが出回ることにならないかと危惧しています。
それでも、私たち小売店はお客様が思わず笑顔になるようなお茶を提供できるように努力します。
最後にお茶好きの方、お茶に興味のある方へ
味の良し悪しを見分けるには、いろいろなお茶を飲み比べてみるのも一つの方法です。対面販売の店で、お茶の特徴を聞いて選ぶことをお勧めします。100gあたり1,000円程度のお茶を飲み比べていただきたいと思います。「味よし香りよし形よし」となると2,000円以上になります。ぜひとも、この価格帯にもチャレンジしてください。1回2杯分で5~6gです。1杯当たりの単価は30~60円という計算になりますので、決して高くはないと思います。
お茶を1年ぐらい1日1杯飲み続ければ、他のところで飲んだときにお茶の「うまい」「おいしくない」の違いがわかってくると思います。
個人的な考えですが、当組合として難しくなく楽しみながら、お茶の魅力をお伝えできる「お茶会」をできればと考えています。
朝、すっきりしたいとき、ホッとしたいときにお茶を飲んで「おいしいな~」と思っていただければ幸いです。そして、「おいしいお茶を作るのは結構大変なんだ」ということを頭の片隅に入れていただければと思います。
なお、この記事は水上裕造氏の講義内容を中心に深谷が書いた記事であり、文責はすべて執筆者にあります。
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をお読みいただければ、より理解が深まると思います。
(調査部長 深谷智治)