2018年2月15日、東茶協ホールで中国茶についての講習会を実施しました。
講師は明山茶業(株)張文昕氏にお願いし、30名の方々がご参加くださいました。中国茶の奥深さを感じさせる楽しい内容でした。読者の皆さまに、その様子をレポートいたします。
張室長より
ただいまご紹介いただきました張です。私は、日本に1988年に来ましたので、丁度30年になります。
皆さんは中国茶というと、ウーロン茶をイメージされる方が多いとおもいますが、一番飲まれているのは、本当?と思われるかもしれませんが、緑茶になります。
又、中国茶は何千種類もあるといわれています。それでは、あまりにもわかりにくいので一つの分類方法として「6つの色」で分けています。「緑茶」「青茶」「白茶」「黄茶」「黒茶」「紅茶」と分類しています。
今日はこのうち、時間の関係もあるので代表的なものを飲んでいただく予定です。それと、ぜひとも香りのすばらしさを感じていってください。
余談かもしれませんが、日本で初めてウーロン茶を飲んだ時、渋いだけでまずいと思いました。上司に聞くとそれは味から入らずに、痩せるということでウーロン茶がブームになったことが原因ではないかという答えでした。
中国茶は素晴らしいものですので、今日はぜひとも楽しんでいってください。
ここからは、試飲した順に参加者の感想を交えながら紹介します。
龍井茶(ロンジンチャ)
中国で最も多く生産され、飲まれているのが緑茶で、龍井茶はその代表的なもので香りを重視して作られています。釜炒りで殺青します。
【製法】殺青→柔捻→乾燥
【主な産地】浙江省・安徽省・湖南省・江西省・江蘇省・湖北省・貴州省
このように多くのところで作られています。
4月5日までに摘採するものが、評価が高くなります。(清明節の前が基準になります。)
爽やかで、豆のような香り、甘い栗のような香りがするという感想がありました。
味については淡泊であるが品のある味がするという評価がありました。
水色(抽出したお茶の色)は金色透明で素晴らしいものでした。
<お湯の温度>80〜90℃ <茶葉の量>3〜4g <抽出時間>60秒ぐらい
凍頂烏龍茶(トウチョウウーロンチャ)
台湾の南投県凍頂山一帯で生産されているのが代表的です。青茶に分類され揉捻に特徴があります。烏龍茶と比べ爽やかな香りと味が特徴です。
【製法】萎凋→揺青→殺青→揉捻→軽焙煎
やさしく華やいだ香気、鼻に抜ける良い香り。上品なまろやかさ、雑味を全く感じない。
香りが高く日本の緑茶では及ばない香り。ジャスミン茶に似ているところがあるが、香りが人工的でなく爽やかな香り。などの意見がありました。
味については爽やかな喉ごし。味もジャスミンで誤魔化しているのではなく、しっかりした滋味を感じました。評判の良いお茶の一つでした。
<お湯の温度>90〜100℃ <茶葉の量>4〜5g <抽出時間>90〜120秒
東方美人(とうほうびじん)
オリエンタルビューティと呼ばれ、台湾で生産されています。青茶に分類されます。
【製法は凍頂烏龍茶と同じですが、揉捻は軽め】
このお茶については面白い逸話があります。茶葉が虫のウンカに食べられ大変なことになったと思ったそうです。しかしながら、この茶葉を飲んでみると甘みと旨味があり、実に甘い香りがしたそうです。今では、ウンカの内分泌物質により茶葉にストレスがかかり非常に強い甘い香気成分が生まれると考えられています。まさしく「災い転じて福となす。」ということです。
このお茶を飲むときは100㏄程度のカップをぜひとも2つ用意してください。1つは飲むために、もう1つは香りを楽しむためにです。香りを楽しむほうはお茶を淹れたら、数秒待って飲むカップに移してください。熱い時でも甘い良い香りがしますが、時間がたっても、香りは弱くならずむしろ強くなっているように感じました。心が和む甘い良い香りがします。ぜひとも、一度お試しください。
紅茶のような水色と甘いフルーティな香り、旨みのある甘いフルーティは味わい。おいしい紅茶に似ている。などの感想が寄せられました。
<お湯の温度>90〜100℃ <茶葉の量>4〜5g <抽出時間>90秒ぐらい
白毫銀針(はくごうぎんしん)
茶葉が産毛に覆われていることから白茶と名付けられました。茶葉を摘み、ほとんど自然乾燥で仕上げるシンプルな製法のお茶です。
【製法】萎凋→乾燥
自然乾燥だからほっとくだけと思ってはいけません。一針(茶の芽)か一針一葉で摘んでいるので、手間は本当に大変だと思います。それと、室温、湿度の管理も本当に大変で、ノウハウの蓄積が絶対に必要です。じゅんさいに形は似ていて、もう一回り大きい感じです。
ヨーロッパ、特に英国では化粧品の原料として大人気で価格が高騰しているそうです。
【産地は福建省の一部の地域になります】
お茶のことがわかっている方はご推察の通り味も香りも淡泊になります。なぜなら新芽だけでは「みる芽」すぎて味が淡泊になります。味の評価について好みはあるのでしょうが評判は今一つでした。但し、何度も言いますが、このようなお茶を作れる技術は本当に素晴らしいものです。
<お湯の温度90℃> <茶葉の量>4〜5g <抽出時間>60〜90秒
武夷岩茶(ぶいがんちゃ)
青茶の分類に入るので製法は凍頂烏龍茶、東方美人に準じます。但し、焙煎は強くなります。皆さんにはおいしい中国茶というイメージにぴったりのものだと思います。
但し、日本で飲んでいる烏龍茶と違い、ボディがしっかりしていて(飲みごたえがある)渋いだけではなく旨味もあり後味が素晴らしいものでした。
全てのお茶に言えるのですが、渋みと旨味このバランスが重要なのです。割合は違っても「旨味と渋み」がなくてはお茶とは言えないのです。中国では大紅袍(部位岩茶の最高峰)の価格はオークションにかかるくらい高く、自分で飲むよりも高級官僚の贈答品に使われているとの噂もあります。
参加者の意見も普段飲んでいる烏龍茶と比べ香りもよく、やや深い焙煎の味わいが良いとの評価でした。これも2カップでお試しください。写真11.12
<お湯の温度>90〜100℃ <茶葉の量>4〜5g <抽出時間>60〜90秒
滇紅(しんこう)
雲南省で生産された紅茶で雲南紅茶とも呼ばれています。
【製法】萎凋→揉捻→発酵→乾燥
【紅茶の主な産地】安徽省、福建省、雲南省、海南省、広東省、広西省
紅茶は生産地で見ると多くの省で作られています。多くが輸出されています。
文字通り紅茶の分類に入ります。共通している感想は甘い香り、蜂蜜のような香りで、味も甘みを強く感じる。ストレートで飲んでおいしい。などの感想がありました。
私たちが日頃、飲んでいる紅茶に比べ味も香りもボディがずっとしっかりしていました。
茶器について
あまり、窮屈に考えずに中国茶急須、ガラスのティーポット、陶器のティーカップ、ガラスのティーカップなどを必要に応じて使用してください。香りを楽しむ場合は小ぶりの陶器のティーカップを二客用意して一つは飲むカップ、もう一つは香りを楽しむカップと考えてください。
急須を使用する場合は同じ種類のお茶で使用してください。香りが喧嘩せずに、なじんでよりおいしく飲めると思います。お湯の温度は日本茶よりも高い温度で淹れてください。目安としては中国緑茶で85〜90℃、その他は90〜100℃度となります。
▼聞香杯
張室長より
ここで茶葉を見ていただき味と香りを試していただいたお茶は、いずれも高級品で手摘みのものでした。
中国茶は一枚一枚の葉が、最後にわかります。日本茶は蒸しが深い茶が多く葉の形が崩れているものが多いと思います。
最高のものばかりを飲むと、いつも飲んでいるお茶が美味しく感じなくなるという感想もありましたが、美味しいものがわかれば、どこまでなら妥協できるかもわかります。そこをお財布と相談しながら購入してください。その時は
茶専門店で商品知識のある従業員の方と色々話しながらお買い上げください。お茶の奥深さを知れば、もっと楽しくなると思います。
中国は偽物であふれていて、お茶の作り方もいい加減じゃないと思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。等級を国・県が審査しています。中国の人もお茶作りはプライドを持って作っています。日本と同様に新しい品種の研究も盛んに行われています。
調査部が水分量について推測しました。
日本の緑茶の水分量は新茶期およそ5パーセント、10月以降は一般的に火入れ(焙煎)を強くしますので、少し減って4パーセントぐらいになります。
水分量が多いと、その分劣化(酸化)が早くなります。5月以降は気温も高くなることの相俟って劣化が進みます。ですので、開封後の新茶はできるだけ早く飲み切って欲しいと私たちはお客様に説明をしています。
意外だったのですが、萎凋してある中国茶の水分量は7パーセント(きちんと検査をする)ということです。本来ならば賞味期限は短くなるはずですが、賞味期限は長くなります。これはなぜでしょうか?
調査部で話し合いながら推測ですが、萎凋というのは酸化です。つまり酸化が進んでいるので酸化する割合が大きく減っているということにより賞味期限が長くなるのではということになりました。それと、本当に不思議なのですが、ある程度、期間がたったお茶のほうが美味しくなるということもあります。後熟(こうじゅく)という言い方がされていましたが、正確ではないということで、あまりこの言い方は言われなくなっているようです。煎茶は数ヶ月、玉露は数年というものもあります。中国茶も同様に数年待ったほうが良いというものもあるそうです。
筆者の独り言 茶の定義について考える
お茶の木はツバキ科ツバキ属の常緑樹です。チャの木(茶の木、学名:Camellia sinnensis)と呼ばれ、原産地はインド・ベトナム・中国西南部とされていますが詳しいことはわからないようです。ただし、いずれも茶を栽培し飲んでいるところです。現在、お茶の木から作っているのは日本茶・中国茶・紅茶以外はありません。それ以外の「茶」は茶を飲みものという感じで使っていると思います。中国では「茶外茶」という言葉で記していますが的を射ていると考えています。でも、もっというと「茶」というのを使ってほしくないと、あくまでも個人的な意見ですが考えています。きちんと定義がされているのですから、それに準じた呼称でなければ、消費者にそれこそ誤解を生む恐れがあるのではと考えています。
発酵の違い
閑話休題。
それでは、日本茶・中国茶・紅茶の違いは一体何なのでしょうか。一般的には日本茶は発酵(萎凋)、中国茶は半発酵、紅茶は発酵といわれていますが正確ではありません。そのタイプの茶があると考えるのが正確だと思います。半発酵にもいろいろな製法があるということはお分かりいただけたと思います。製造過程は前述した各茶の製法をご参照ください。
日本では発酵(萎凋)は好ましくないと考えられてきましたので、日本茶として発酵(萎凋)の市場性はあまりありませんでした。しかし、食文化の多様性と相俟って、発酵(萎凋)のもつ良さが注目されています。「和紅茶」などがその代表といえます。
一般的に日本茶は茶葉を収穫後、直ちに「蒸す」という工程で発酵(萎凋)を止めます。また、「釜炒り」で止める方法もあり(殺青)、見かけることは少ないかもしれませんが、「釜炒り茶」として売られています。
様々なタイプの「茶」があり、お気に入りのお茶を見つけてください。冷蔵庫からペットボトルのお茶を飲むのではなく少し時間をとって茶葉で淹れて飲んでください。最高級茶を飲んでも一杯当たりの単価は250㏄100円。とっても豊かな気持ちになりますよ。それから朝はぜひとも飲んでください。朝茶は特におすすめです。
最後になりますが、講義を快く引き受けてくださり、記事を作成するにあたり、アドバイスをいただいた明山茶業(株)取締役中国室長 張文昕氏に感謝とお礼を申し上げます。
文責 調査部長 深谷智治