2021年11月6日

お茶をたしなむためのキホン 茶道具「お茶碗」のお話

茶道具とは、その名の通りお茶を服するための器、道具です。

日本では、縄文の時代より多くの器が作られ、生活に密着してきました。そんな歴史の中で、中世に茶の文化が大陸から伝わり、それと同時にお茶を飲む道具=「茶碗」の様式が取り入れられてきました。

そして、それぞれの時代の空気を取り入れ、意匠によって色々な茶碗や茶道具が創作されました。時に、それは国の宝として、恩賞として、富や権力の象徴として珍重され、現代に伝わっております。

ですので、ひと口に「茶道具」といえども、鑑定眼、審美眼、歴史的背景などを兼ね備えてひとつひとつ深くお話ししたいところですが、今回は「お茶を楽しむための道具」としてのお茶碗のお話を、簡単にご紹介していきます。

お茶(抹茶)を飲むための道具

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・茶碗・・・茶をいただく器。いろいろな形、産地やデザインがある。
・茶杓・・・抹茶をすくう匙。スプーンのようなもの。
・茶筅(せん)・・茶碗に入れた抹茶にお湯を注いだ状態のものを撹拌する竹製のもの。
・なつめ・・・抹茶を入れておくもの。

その他、茶席の設(しつら)えには、掛け軸、花入れ、また湯を沸かす釜、釜から湯をすくう柄杓(ひしゃく)など様々なお道具があります。

(2021年10月に、テレビ東京で「お茶にごす」という人気漫画がドラマ化されており、茶道部が舞台となっております。ドラマの中でも茶席の様子を感じて頂ける場面もありますので、ご興味のある方はぜひ。)

茶碗の変遷

茶文化が日本に入ってきた当時、「茶碗」という言葉には、青磁のような釉薬の掛かった磁器という意味も込められていたそうです。我が国においても最初は、お茶を服するためのお茶碗は、青磁や唐物と呼ばれる中国大陸産のお茶碗が使用され、茶を楽しんでいたようです。しかし、時代が移るにつれ、好まれるもの、歴史的背景も変化をし、それまで外国の高価なものを良しとする派手さのある茶文化から、質素でその中にある自然の美しさ、静かさを楽しむ「侘び茶」という美意識が主流となっていきます。

それに伴って、使用される茶碗も高価な唐物から、朝鮮半島の日用の雑器等安物として使われていたものの一部が、高麗茶碗(こうらいちゃわん)として用いられるようになりました。この茶碗は、当時素晴らしい焼き物の技術と文化があった朝鮮半島の主流とは一線を画し、日本における「侘び」という美意識の中から見出されています。そして、この流れに合わせて、日本各地に特色ある窯を多くもつ和物(国産茶碗)が茶会に多く登場し、大名や武家などの当時の富裕層・愛好家だけでなく、一般の庶民も茶道具を手にする機会が多くなり、さらに茶の文化が広がっていきました。そしてその和物茶碗の中でも、最も「侘び」の中心にある茶碗が「樂茶碗(らくちゃわん)」であります。

樂茶碗

樂茶碗は、桃山時代の陶工の長次郎(初代)が創作したお茶碗です。当時、この「侘び茶」の中心にいた、超目利きであり、日本茶界のスーパーディレクター・千利休(せんのりきゅう)の意匠を美意識をくみ取り、注文を受け、まさに「おかかえ」で創作されたお茶碗が樂茶碗です。この「樂(楽・らく)」の字は豊臣秀吉から長次郎が賜ったとされており、時代を代表する陶工。お茶碗であったと容易に推察できます。当時の茶碗作りは、ろくろで製作されるのが主流でしたが、それとは逆行して、ひとつひとつ手捏ね(手びねり)で製作され、それを削っていくという方法で作られました。独特の風合いを持ち、素朴でありながら、その茶碗の見込み(内側)を覗くと、宇宙に吸い込まれていくような世界を感じ、醸し出す雰囲気は、深い森に一本だけ自立する老木のような清らかな重厚感があります。

茶碗の種類

茶碗の呼び名には、非常に様々なものがあります。
地名によるもの、形状によるもの、釉薬の状態によるもの、文様や人名によるものやその他いろいろ。
*地名によるもの・・・瀬戸/志野/志戸呂/信楽/萩/備前/薩摩/清水/熊川
*形状によるもの・・・割高台/呉器
*文様によるもの・・・三島/刷毛目
*釉調によるもの・・・織部/伊羅保/柿の蔕/粉引
*人名によるもの・・・井戸・斗々屋・仁清

天目(てんもく)茶碗

天目とは、中国の天目山一帯の寺院で用いられた、鉄釉をかけてた焼かれた茶碗。鎌倉時代に茶文化と同時にこのお茶碗を持ち帰った為、貴族や茶愛好家の間で広く親しまれました。形状、高台が低く土見せになっているうえ、内側にややすぼまった「すっぽん口」になっており、上が広く下が小さい漏斗(じょうご)のようになっているものを指すようになりました。

「写し」について

茶碗の中に「写し」(うつし)というものがよくあります。これは、本物をまねて作ったということとは別に、そのお茶碗の雰囲気で名前がつくこともあります。例えば「仁清(にんせい)」は陶工の名前ですが、とてもきれいな彩色を施したお茶碗を製作されているところから、茶碗に鮮やかな彩色が施されているものを「仁清写し」と呼んだり(正式には仁清がデザインしたものではなく、デザイン自体は現代の作家の創作)、同様に茶碗の一部に緑の釉薬が掛けられたものを「織部(おりべ)」と呼んだりします。また茶碗の産地と形状を合わせて、「瀬戸柿釉天目茶碗」や「出雲焼釘彫伊羅保写し」などと呼ばれ、名品であるとさらに「銘」が付き、前出の伊羅保写しには「寒菊」と特別に称されるものもあります。

茶道具の鑑賞

茶道具の鑑定は美術品の鑑定であり、一朝一夕に出来るものではありませが、好みは一人一人別々ですので、ご自身の好きな茶道具、好きなポイントを見つけらたら、茶碗の鑑賞がより一層楽しくなります。

その際に、一番大切なポイントは、「なり・ころ・ようす」と言われます。

「なり」とは、形です。「ころ」とは、バランス、「ようす」とは、その道具が持つ全体の雰囲気、オーラのような佇まいです。この三つを念頭に置いていただき、下記の細部も茶碗の特徴が出やすい鑑賞ポイントですので、合わせてご覧ください。人間の顔やスタイル同様、とても個性があり、茶碗が「イケメン」「美人」などと感じるようになったら、もうツウ!?ですね。

茶碗の鑑賞の名称・見どころ

・「見込み(みこみ)」・・・茶碗の内側。覗き込んだところ。
・「口造り」・・・茶碗の口辺。水平なものから高低差のあるものもある。
・「高台(こうだい)」・・・茶碗を支える底の部分。
・「畳付き(たたみつき」・・・畳に直接触れる部分。
・「兜巾(ときん)」・・・高台の真ん中にある突起物。形も色々。
・「目跡(めあと)」・・・焼く際に茶碗と地面がくっつかないようにかませた粘土の跡。
・「茶溜まり(ちゃだまり)」・・・茶碗内側中央にあるくぼみ。
・「土味」・・・焼き物の肌。風合い。

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見て損はなし!国宝の茶碗たち

国宝のお茶碗は文化財的な価値のあるものですが、前出の「長次郎」の作品などは、国宝でなくともぜひ一度はご鑑賞をお勧めしたい名品ばかりです。百聞は一見に如かずで、高麗茶碗や日本の和物茶碗も一度ご検索されれば、まずはその雰囲気を感じていただけるかと思います。

・志野茶碗 銘卯花墻(三井文庫蔵・三井記念美術館保管)
・楽焼白片身変茶碗 銘不二山 光悦作(サンリツ服部美術館)
・曜変天目茶碗(静嘉堂文庫)
・曜変天目茶碗(藤田美術館)
・曜変天目茶碗(京都・龍光院)
・油滴天目茶碗(大阪市立東洋陶磁美術館)
・玳玻天目茶碗(相国寺)
・井戸茶碗 銘喜左衛門(孤篷庵)

最後に

私たちの生活を振り返っても、きらびやかなものが流行れば、次は自然派・天然・素朴なものが流行したり、また、著名人のライフスタイルや好みがそのまま、一般にも浸透していくということも東西を問わずあります。それは、昔もまた同じで、愛好家や顧客の好みに合わせてデザインされたり、流通するのも現代と同じだったのではないかと思います。千利休の時代の茶人にも人気のあった「高麗茶碗」などは、日本人の好み(大名や武家)に合わせて朝鮮半島の出先機関に発注をかけ、現地の窯で日本向け専用に焼かれて輸入されたものも多かったようです(現代のブランド商品のようですね)。

現在、時代を経て残っているお茶碗の数々は、どの時代においても我々日本人の心・美意識にかなう名品ばかりです。これらは美術館の特別展として展示されたりしますし、国宝に限らず、歴代の偉人たちを魅了した数々の茶道具もまだまだございます。歴史的な背景などと合わせてお楽しみいただき、時代を超えて、茶道具を通して、先人たちと「美」を共有できたらとても素敵なことではないでしょうか。これを機に少しでもご興味を持っていただき、皆様の「美意識」を元に茶道具を見立てて、ご自身の世界観をお楽しみいただけたら幸いです。

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