2024年1月9日

【2024】君野理事長より新年のご挨拶

謹賀新年

東京都茶協同組合 理事長 君野 信太郎

新年明けましておめでとうございます。

旧年中のコロナによる規制も無くなり、海外からのインバウンドの方も増えてきて多くの方が日本を訪れるようになりました。

しかし、いまだウクライナとロシアの戦争に加え、イスラエルとハマスとの対立が起こり、世界平和に不安をきたしております。

日本文化の象徴である「茶」の世界が、どれだけ世界に対して啓蒙でき平和を取り戻せるかが、問われているような気がしております。

昨年、歴史のグループによる勉強会を行い、売茶翁「高遊外(こうゆうがい)」の手紙文を読み解く研究会をしてまいりました。

高遊外の絵

高遊外の絵解説

高遊外は江戸時代の禅僧だった人で、履歴を簡単に述べると1675年佐賀県に生まれ、12歳で仏門に入り、体が弱く心身を鍛錬するために22歳で修行の旅にたちます。京都黄檗山や仙台など各地にて修行の後、61歳の時に鴨川べりに茶店を開き、売茶活動を始めます。

68歳に還俗をし、売茶翁と改名、永谷宗圓を訪ね蒸製煎茶を讃えます。70歳を過ぎ、大典顕常、木村兼葭堂、池大雅、伊藤若沖などと交流。売茶翁の商いは「茶銭は黄金百鎰より半文銭まではくれ次第、ただのみも勝手、ただよりはまけ申さず」言い、文人煎茶を定着させる原動力となり、あらゆる階層の人に普及いたしました。お茶によって多くの文人に影響を与えると共に歴史を作り上げました。そして89歳(1763)で他界しました。

中国においても、禅語として有名な逸話があります。

かつて東京都優良茶品評会の50周年を記念して品評会のランクの名称「華*誉*香」と裏面に「喫茶去」を書家の方に書いて戴いた扇子を作成し、各組合員のお店に飾っていただきました。今年の新年の御挨拶に若沖の書いた売茶翁のお茶を売る姿と禅語「喫茶去」の逸話を掲載したいと思います。

喫茶去

一般に「きっさこ」と読みます。「どうぞ お茶でも召し上がれ」という意味です。

原典は中国唐時代の趙州従諗禅師のエピソードが元になった禅語です。(五灯会元 趙州録 公案「趙州喫茶去」)

趙州和尚のもとに教えを乞うて修行僧がやって来ました。
趙州「曾(か)って此間(すかん)に到るや」(前にもここに来たことがあるかね)
修行僧「曾(か)って到る」(以前にも来たことがあります)
趙州「喫茶去」(そうか、ならばお茶でも上がっていきなさい)

その後、また別の修行僧がやってきました。
 趙州「曾(かって)到るや」
 修行僧「曾(かって)到らず」(いいえ、来たことはありません)
 趙州「喫茶去」(そうか、ならばお茶でも上がっていきなさい)

それを聞いていたこの寺の院主は「和尚は曾ってここに来た者にも、初めて新しくやって来た者にも同じことを言われるがどういう訳ですか」と尋ねた。趙州はそれには答えず「院主さん」と呼んだ。院主は思わず「はい」と答えました。そして趙州はまた「喫茶去」(お茶でも召し上がれ)このとき院主は、はっと悟ったと言われています。

このなぜ悟ったかの追体験が禅問答の意図するところですが、趙州が接した三人への同じ対応が一切の相対する思量分別のない無心の境地からの「喫茶去」ということです。

振り返ると奥深いものがありますが、茶業からすると全ての人に「お茶でも飲みましょう」というアピールは現代の私たちも共感できるものです。お茶の時間は、日常を忘れさせてくれる極上のリラックスタイム。複雑な出来事が起きる毎日の中で、自分と静かに向かい合える瞬間は大切な時間です。お店から多くのお客様、皆様へ「喫茶去」大いにお茶をアピールください。

日本には優れた先人がいて、人が来たらお茶を出し、どこでもお邪魔した時にはお茶が出て戴く。「日常茶飯事」と言われ、当たり前のようにお茶と人との繋がりをうまく活かして、人間関係を作り上げてきました。

多くの人が来日する機会を活かし、世界にお茶の心を伝えていきたいと思います。

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