東京都優良茶品評会は、2016年で第46回を迎えます。ほかの業界でもいろいろな品評会、あるいはそれに準ずることを行っていますが、歴史と継続性を考えると、なかなかのものであると思っています。
品評会の手順を時系列で申し上げますと、出品茶の依頼→出品茶到着→審査→販売会→組合販売店→お客様の手元へ、という流れです。
茶の品評会は様々な団体により行われていますが、消費者に一番近い販売店組合が行っているのは大変珍しく、審査を「滋味(お茶の味のバランス、うまみ)」の項目から始めるのが特徴といえます。審査対象のお茶は「煎茶」で「仕上げ茶」です。
茶の品評会の審査項目というのは、「滋味」、「水色」、「香気」、「外観」の4部門であり、これはどの品評会でもみな同じです。一般的には、「外観」から審査を始めるのが多いようです。
では、私共はなぜ「滋味」から始めるかと申しますと、「内質(中身)重視」、平たく言うと「見た目より中身」という考え方であるためです。従って、点数配分も「滋味」と「香気」が高い割合になっています。
審査会においては、農研機構茶業研究所の方を審査長とし、その他の茶団体と行政の方を外部審査員、当組合員を内部審査員として、審査を進めます。
なぜ「東京都優良茶品評会」を実施するのか
一番の目的は、優れた出品茶をお客様に購入していただき、日本茶(煎茶)の良さをあらためてわかっていただくこと。
二番目の目的は、出品した茶商社・茶問屋とのコミュニケーションです。このことも含めて、東京で褒章式を行っています。
一等一席の茶には「農林水産大臣賞」が授与されますので、土壌・肥料の管理を徹底した専用の茶園で栽培したお茶を出品する商社も多数います。ですので、相当レベルの高い煎茶が出品されていることに間違いはありません。また、これは、同時に茶問屋にとっての生命線である「仕上げの技術」の評価になります。
審査風景
このWebサイトを頻繁に訪問してくださっている方は見飽きているかもしれませんが、少々お付き合いください。審査において何しているのかを、簡単に説明します。
滋味
「滋味」は、茶を審査網で熱湯2分間で抽出し、スプーンで啜って判断します。
評価の高いものは、「一、フレッシュな滋味を感じるもの」、「二、深い滋味を感じるもの」ということになりますが、二つ目の感じかたは難しいものがあるような気がします。
ここからは私見ですが、「滋味(うまみと甘み)を際立たせ、その他の味を極力少なくしたもの」と、「滋味と渋みのグッドバランス」の二種類あるのではないかと思っています。
成分分析すれば良いのではという意見もありますが、時間的制約、金銭的制約、また、成分分析ではわからないこともあり(「ここまでわかった茶の香り」記事参照)、官能審査で行っています。ただし、あと十数年たつと変わるかもしれません。
水色
水色も同様に、審査網で2分間抽出したもので判断します。
深蒸し茶は「明るい黄緑色・緑色」、普通煎茶は「金色透明・明るい黄色」が良い、ということになります。
この審査のむずかしさは、「一、深蒸し茶は時間がたつと底に沈む」、「二、火入れの弱いお茶は変色のスピードが速い」、「三、金色透明は黄色に比べ多少赤み(これはマイナス評価)を帯び、これと欠点の赤みとの違いを見抜くのが難しい」ということにあります。
香気
審査茶碗に熱湯を入れ、審査網で直ちに香りを嗅ぎます。冷めると香りがわかりにくくなるからです。
香気を審査するのは、香気と滋味が一体だからです。香りは、特にお湯に入れた茶葉の香りを嗅げば味が推測(イメージ)できるのです。
これも私見ですが、茶葉そのものを嗅ぐと火入れを強く感じるのに飲むとそれ程ではないとか、茶葉ではフレッシュ感を感じるのに飲むとそれ程ではない、ということもあります。
この推理する時間はなかなか楽しいものであります。
この審査で外す私はスキル不足ということになりますが、実はそうとも言い切れないところもあると思っています。お湯に入れた場合どうなるかというと、それは同時に飲んでしまうので、楽しんで推理する時間がないのです。
外観
外観は黒い拝見盆を使用します。
普通煎茶は「細撚りで長さが揃っているもの、光沢のあるもの、粉っぽくないもの」、深蒸し茶はどうしても光沢は落ちるということを斟酌し、「細撚りの茶葉が多いもの粉っぽ過ぎず、全体のバランスの良いもの、伸びのある茶葉が多いもの」を評価しています。
茶の傷みは、「滋味」より初めに「茶葉」と「水色」に出るように思います。茶葉の色が薄くなり、外観・水色に赤みがかってくるのです。
まとめ
茶の審査中には、以上のようなことを考えています(その他にも、それぞれ自分の審査基準があるかもしれません)。
官能審査である以上、自分の好みが究極的には反映されるのですが、ケインズのいうところの「美人投票」の面があります。すなわち、個人的にはこっちが好みであるが、多くの人たちはこちらを選ぶだろうと考えるということです。
これは言い方を変えれば、「価値観の共有」ということになります。そのためには、ある程度のスキルが必要です。それを手に入れるには、様々なお茶を注意深く多く飲むということと、自分なりの言葉でそれを表現する力をつけるということではないでしょうか。
いずれにしても、よくお茶屋のみんなで話すのですが、「品評会で見るとそうでもないが、店で見るとみんな良い茶だって思うんだよなー!」
これに一同納得なのです。
そういうお茶が組合公認店のお店に10月初旬には店頭に並びます。黄色いのぼりと赤いポスターを準備し、茶袋には目印のシールが貼ってありますので、それを目安にぜひとも、お買い上げください。
文責 調査部長・深谷智治