2022年1月8日

【新春特別寄稿】歯科医師から見たお茶の魅力

新年あけましておめでとうございます。

今回は新年特別号といたしまして、高知県の歯科医師・前田好正先生に医学的見地から「口腔とお茶の関係」について解説いただきました。ボリュームたっぷりの内容ですので、じっくりお楽しみください。

写真:正月のイメージ

まずは、ご挨拶

東京都茶業協同組合のウェブサイトをお読みの皆さま、はじめまして。私は高知県で歯科医師をしております前田好正と申します。

写真:前田好正先生

「高知県の歯医者がなぜ突然に?」とお思いでしょうが、実は私は茶の国静岡の出身で、父の実家は一族で製茶業を営んでいます。静岡市葵区の「やまはち前田幸太郎商店」という店ですが、今も弟の前田文男が従姉妹の下で、製茶に精をだしております。私事ですが「やまはち」は祖父が昭和元年に創業し、当初から東京都の小売店様との取引が多かったそうです。

私の父も昔は、大きな荷物を抱えて毎月東京に出張に行っておりました。子供の私は東京という大都会のお茶屋さんにうちのお茶が届くのだと、誇らしい気持ちで見送っていたことを思い出します。このように祖父から三代に渡って私共は東京都の茶業界の方々にお世話になっており、感謝と共にご縁を感じております。

翻って私は、静岡で高校時代を過ごしたあと歯学部に進学し、卒業後は縁あって四国は高知の大学病院に勤務した後、家内の父親の歯科医院を継いで現在に至っております。この度、竹内ひさ代理事より歯科医からみたお茶の魅力について述べて欲しいとの依頼を受けお引き受けすることとなりました。お茶が歯科に及ばす効果はまとめてみますと思った以上のものがあり、面白くこの原稿を書かせていただいています。

緑茶の魅力と効能とは

さて緑茶の魅力について素人の私が思うのはまず、飲んで大変美味しいということです。

上質な緑茶ほど香甘苦渋のバランスが絶妙で、しかも入れる温度によって味が大きく異なります。これほど微妙な味の変化を楽しめる飲料は他に見当たらないと思います。心にも優しいようで、私は朝に夕に緑茶をすするたび、肩から首へ抜けるような開放感を味わっています。更にお茶が素晴らしいのは嗜好品として美味しいだけでなく健康に寄与する沢山の成分が含まれていることです。

写真:茶のイメージ

お茶の歴史について調べてみますと、原産地中国ではもともと解毒作用や不老長寿の薬として継承されてきました。日本臨済宗の開祖である栄西禅師は、著書『喫茶養生記』の中でお茶の健康効果を説き、日本でもお茶が知られるようになりました。当初お茶は体に良い飲み物として伝来したのでしょうが、江戸時代になると一般庶民にも嗜好品として広く愛飲されるようになりました。当時もお茶には色々効能があると思われていたらしいのですが、近年では、緑茶の健康効果が医学的に解明されるようになってきました。下に主な効能と成分を列記してみます。

緑茶の効能

  • カテキン
    • 抗酸化作用
    • 抗ウイルス作用
    • 殺菌、抗菌効果
    • 抗がん作用
    • 血糖値の上昇抑制
    • 肥満予防
  • カフェイン
    • 疲労回復
    • 覚醒効果
    • 利尿効果
    • 強心効果
  • テアニン
    • リラックス
    • ヒーリング
  • ビタミンC
    • 抗酸化作用
    • 免疫力向上
    • 疲労回復
    • 風邪予防
  • フッ素
    • 虫歯予防
    • 抗酸化作用
  • サポニン
    • 免疫力向上
    • 肥満予防

カテキンの効能

まず第一に挙げたいカテキンは、食品の健康成分として有名なポリフェノールの一種で、肥満、糖尿病や動脈硬化などの成人病の予防、抗がん作用、老化防止抗酸化作用等の効果があります。

また、緑茶にはカテキンのなかでも細菌やウイルスの増殖抑制に特に効果が高いエピガロカテキンガレートが含まれ、食中毒菌、風邪、インフルエンザ更にコロナウイルスへも効果があるとされ、このご時世に私達にとって頼もしい味方です。

写真:カテキンイメージ

茶カテキンにはたんぱく質と結合する力が強いという特徴があり、緑茶を飲むと感じる渋みは、口の中でカテキンがたんぱく質と結合するときに生まれていると考えられています。この茶カテキンが、感染症の原因となる細菌やウイルスの表面にあるたんぱく質と結合することによって、細菌やウイルスの力を弱める可能性があるというのです。

歯科領域では、歯周病菌を抑制し歯周病を改善することが確かめられています。歯周病とは以前は歯槽膿漏と呼ばれていて、歯を失う大きな原因となる病気です。歯にくっついているプラーク(歯垢)の中の歯周病菌がハグキに炎症をおこし、進行すると歯を支える骨まで破壊していく病気です。写真1のように、初期は歯肉炎としてわずかに部分的に歯肉が腫れる程度ですが、進行すると全体的に帯状に歯肉が発赤し腫れも強くなり(写真2)、更に、症状が進行すると歯を支える骨(歯槽骨)を溶かし、やがて歯が抜けてしまう原因になります(写真3)。痛みなどの自覚症状がなく進行するので、別名サイレント・ディジーズ(静かに進行する病気)と呼ばれます。


写真1 初期の歯肉炎(GO)


写真2 進行した歯肉炎


写真3 歯周病(歯周炎)

歯周病の恐ろしさ

近年、歯周病は誤嚥性肺炎や糖尿病、動脈硬化、心臓病など全身疾患とも関わりがあることもわかってきております(図1)。

厚労省の健康白書にも健康寿命を延ばすために歯を失わないことが重要であると謳われて久しいです。図2のように30歳以上の7割は歯周病に罹っているといわれており、歯を失う原因のNo.1となっております(図3)。歯周病は歯周病菌による感染症である一方、生活習慣が関係しております。たばこを吸う、疲労やストレスをためている、よく噛まずに食べる、間食が多い、つい夜ふかしをしてしまう、そんな人は歯周病に要注意です。歯周病の予防にはブラッシングによる歯垢の除去が必須ですが、生活習慣を改善するとともに抗菌効果のあるお茶を頻繁に飲む事を生活に取り入れるのが良い方法と私は考えます。

歯周病が進むと口の中が粘つき口臭がひどくなる事がおこりますが、コロナ禍のマスク生活で6割以上の方が「自分の口臭が気になる」と感じているそうで、特に女性にその割合が多いとの事です。軽度の口臭予防にはブラッシングによる歯垢の除去に加え舌の清掃が有効です。詳しい方法は歯科医院でご相談くださいませ。又茶カテキンには、口の中の悪臭の原因となる成分と化学的に結合する事で口臭を改善する効果もあります。この効果を利用して、ガム、キャンディ、サプリメントなどにも茶カテキンが使われています。口臭予防の補助的手段としてこれらを利用するかお茶によるうがいを頻回に行うことが有効ではないかと思います。


図1 歯周病と全身疾患の関連 


図2 成人の歯周病罹患率


図3 歯を失う原因

その他の茶の成分

茶に含まれる成分の中でカフェインはもうひとがんばりしたいときの強い味方ですが、癒やしにつながるテアニンも同時に含まれているのですね。私が先ほど述べた肩から首へ抜けるような開放感はテアニンによるものかもしれません。そしてビタミンCもよく知られた成分なのですが、お茶に含まれるビタミンCは熱に強いため野菜よりも効率的に摂取することができるそうです。このほかにも抗酸化作用のあるサポニンやマンガン、銅、亜鉛などのミネラル類も豊富なうえに、食物繊維やコエンザイムQ10といった、美容に嬉しい成分も入っています。亜鉛などのミネラル類は味覚にも関係しております。歯科に来られて味覚障害を言われる方の一部は亜鉛の投与で改善することもあります。

フッ素の働き

さて、カテキン以外にも歯科にとって大事な成分があります。それはフッ素です。フッ素の虫歯予防効果が大きいのは皆様ご存じのことと思います。虫歯は図5に示したとおり歯質、食物の3つの要素に時間の経過が加わる事によって発生するといわれております。適正な歯みがきの習慣により虫歯菌の塊の歯垢を除去する事、おやつをダラダラ食べたりせず規則正しい食生活を送る事で糖質や細菌の要素は解決できます。


図4 虫歯になる4つの原因

そして歯質の強化にフッ素の利用が効果的で、これまでもフッ素入り歯磨き剤の使用、小中学校でのフッ素洗口の取り組み、歯科医院でのフッ素塗布などによって虫歯予防の成果が実証されております。

写真4、5、6は虫歯の進行度合いを示しております。写真4はCOと呼ばれるごく初期の虫歯です。この写真のようにわずかな、白い濁りや浅い着色のものは正しい手入れによって消えてしまうことがあります。この手入れには適切な歯みがき、規則正しい食生活と共にフッ素の有効な活用が効果的であるといわれております。


写真4 ごく初期の虫歯(CO)


写真5 少し進行した初期の虫歯


写真6 進行した虫歯

フッ素の活用を世界的にみますと水道水へフッ素を適量添加して飲用する方法もあり、FDI(国際歯科連盟)が薦める虫歯予防法ランキングではこれが1位となっております。多くの国で実施され世界で3億人が利用しておりますが、日本ではまだ実施されておりません。一方、私たちが日常口にしている食品中にはかなりのフッ化物が含まれており、なかでも緑茶の葉にはとくに圧倒的に多く200~400ppmもあって、急須で淹れたお茶にも虫歯予防に有効とされている1ppm前後は溶出しているようです。水道水へのフッ素添加がなされていない日本におきましては、同程度のフッ素濃度を含む茶を日常的に飲む事は虫歯予防を進めていく上で有効ではないかと考えられます。

特に小児では、甘い嗜好飲料を頻回摂取する環境が虫歯、肥満出現の要因となっており、望ましく思えません。これらの点を考慮すると、茶を食生活に取り入れることは規則正しい食生活に導くひとつのポイントにもなるのではないかとも考えられます。

おわりに

このように緑茶は味においても、効能においても、他の飲料では太刀打ちできない優れた飲み物と考えます。世の中には本当に多種多用の飲料があふれかえっており、私自身も色々な物を口にします。しかしながら思えば日本の家庭で湯飲みぐらい普及している食器はなく、一生使い切れない数を持っていても更に購入したり、自分で焼く人も多いです。そのことからもお茶は癒やしであったりもてなしであったりで、皆の心をつかんでいるのだなと思います。

以上のことから日本茶の良さがもっともっと表にでることをお祈りしております。

執筆者プロフィール

日本矯正学会認定医
前田好正(まえだよしまさ)
昭和32年11月13日生

昭和58年 日本歯科大学歯学部卒業
同年より高知大学医学部歯科口腔外科勤務
平成3年 高知大学医学部歯科口腔外科にて医学博士取得
昭和63年より医療法人泰和会森本歯科診療所理事長 現在に至る
平成1年より高知学園短期大学非常勤講師 現在に至る
平成25年~令和1年 高知県土長南国地区歯科医師会会長
令和1年~令和3年 高知県歯科医師会副会長

食育

先生必見!日本茶で食育授業

先生必見!日本茶で食育授業

オススメ

動画で学ぼう!「日本茶の美味しい淹れ方」

動画で学ぼう!「日本茶の美味しい淹れ方」

組合認定店を「名前で探す」

組合認定店を「名前で探す」

組合認定店を「地域で探す」

組合認定店を「地域で探す」

組合認定店を「最寄り駅で探す」

組合認定店を「最寄り駅で探す」

美味しいお茶の淹れ方

美味しいお茶の淹れ方

お茶を使ったレシピ

お茶を使ったレシピ

食育への取り組み

食育への取り組み

お茶の保存方法

お茶の保存方法

お茶のトリビア/コラム

お茶のトリビア/コラム

メディア掲載

メディア掲載

私たちはお茶のプロです

私たちはお茶のプロです

茶器と急須

陶製急須のトリビアあれこれ

イベント情報

イベント情報

その他

その他