2024年3月21日

蒸さずに「炒る」日本茶・釜炒り茶(かまいりちゃ)をご存知ですか?

釜炒り茶(かまいりちゃ)とは?

日本茶にご興味のある諸兄姉はご存知かと思いますが、「名前は聞いたことがある」という方はいらっしゃっても、「飲んだことがある方」とまでお尋ねすると、ぐっと少なくなるお茶の一種かと思います。

釜炒り茶の生産量は、日本茶全体の割合から見て1%以下。

原産地は、九州地方の佐賀県・熊本県・宮崎県の3県の限られた地域がほぼ主産地です。当組合のある東京都内の茶店舗を見渡してみても取り扱いをするお店は非常に少ないのが現状です。

写真:釜炒り茶を淹れた様子釜炒り茶を淹れた様子。
透明度があり濃度もしっかりとあり後口に余韻も残る。
香りに癒される。

違いは「炒る」からスタート

釜炒り茶は、本当に特別なお茶なのか?というと、実はそうでもなく、茶畑でお茶を生産し、摘採(お茶を摘む)するところまでは一般的な煎茶、深蒸し煎茶と同様で、原料は丹念に育てられた良質の茶葉を使います。

次に、緑茶は摘採後すぐに加工を始めます。この一番最初にする工程が違います。

日本で生産されるお茶のほとんどがこの最初の段階で蒸気により「蒸す」工程に入ります。長く、また強く蒸せば「深蒸し」、サッと短く蒸せば「普通蒸し」「浅蒸し」となります。

釜炒り茶は、ここで蒸さずに「炒る」という工程から始めます。昔は、大きな鉄釜で炒め物のように炒っておりました(現在は熱した小さなドラム缶のようなもので炒っています)。

佐賀県の嬉野地域では「傾斜釜」という45度に備え付けられたものを、熊本・宮崎では「平釜」という地面と平行にしたタイプを伝統的に使用し、この平釜で作られた茶は「青柳製(あおやぎせい」と呼ばれています。

煎茶は最後に、ピンと針のように伸ばす工程もありますが、釜炒り茶は、ほとんどの釜炒り茶はそれも行いませんので、半月状のクリっとした形になります。ちなみに、「蒸し工程」を経る煎茶で、最後にピンと伸ばさないものを「蒸し製玉緑茶(むしせいたまりょくちゃ)(「ぐり茶」「蒸しぐり」ともいう)と言います。逆に釜炒りにしてピンと伸ばす工程をする生産家もいらっしゃします。

写真:嬉野「傾斜釜」嬉野「傾斜釜」

釜の違いは歴史の違い

これはそれぞれ釜炒り茶の伝来した発祥の違いから由来します。

嬉野地域は、1440年に平戸に渡来した明の人がこの地域に移住し陶器を焼く傍ら、自家用の茶を栽培したのが始まりで、その後1504年に同じく明の・紅令民という人が「南京釜」を持ち込み製茶したのが始まりと言われております。

写真:嬉野・皿屋谷(さらやたに)の風景嬉野・皿屋谷(さらやたに)

一方、熊本・宮崎地域は、1600年頃、加藤清正が、熊本城築城の為に来た、朝鮮半島の技術者の中で、日本に留まりたい人たちを定住させて、その後、その人たちがヤマ茶(もともとあったお茶)を製茶して献上したのが始まりという説もあります。

当時はそれぞれ地域によって釜炒り茶の風味の特徴も異なりましたが、昨今は機械化により、釜による製法間の差異は少なくなってきておりますが、今でも伝統を引き継ぎ、各生産地の気候・風土を活かし往時の雰囲気を残したお茶を楽しめます。

嬉野・宮崎・熊本のお茶をくらべてみました。

比べたお茶1000円相当/100g(感想は個人の所感です)

写真:嬉野茶の茶葉嬉野茶・・・独特の釜香がありスモーキー。

写真:熊本茶の茶葉熊本茶・・・柔和で軽やか、まったり。

写真:宮崎茶の茶葉宮崎茶・・・剛性な作り。シャープな味わい。

ph20130906-001.jpg全国茶品評会に出品された釜炒り茶
(色、艶、形状が整っており美しい)

食事のマッチング

釜炒り茶の風味は何と言っても、キレがありドライ、香りもスッと立つことから、「蒸し」たお茶に比べ、中華料理のような油っ気の多い料理からヨーロッパ系のクリーミーなお料理にもよく合い、様々な食材とのペアリングにもおすすめです。

なかなか関東近県で見掛けない理由としては、

1)生産量が少ない
2)好みに合わない

があげられると思います。特に東京では「深蒸し茶」を看板としている店舗が多く、つまり色の濃い、味の濃いお茶がお好みの方が多い地域と言えます。しかし、それも今は昔、流動性があり、たくさんの嗜好が溢れる東京においても「釜炒り茶」の人気が徐々に上がってきております。以前は全国茶品評会においては、「釜炒り茶」エリアは、どちらかというと「玉露」や「煎茶」に比べて閑散としておりましたが、近年は、多くの茶商が注目して混雑し、入札の価格もそれに合わせて右肩上がりと、供給側としてもその魅力が再認識されております。

今後、九州などにご旅行に行かれた際など、また私ども東京都茶協同組合加盟店にお越しの際にお目に留まられましたら、是非一度お手に取っていただければ幸いです。

(取材協力/嬉野・徳永製茶様)

【余談】お茶の取引は実は色々で面白い。

上記記事の全国茶品評会は入札方式で、希望価格を紙に書き投札。価格が一番上の業者が落札します。

静岡の場合

ところ変わって、静岡県の静岡茶市場では、担当者と業者がお茶を前にしてコソコソと話し、おもむろにそろばんをパチパチして、柏手のような手を打って取引成立。

また、静岡市中では、「才取り」という斡旋屋が生産家から見本を預かり、なじみの茶商を直接回って、値段交渉をして成立すると、数時間後にはトラックが来て入荷。その才取りは朝の夜が明けないうちから来ていました(以前は)。

なぜなら、日中お茶を摘む→加工する→夜中に出来上がる→それらを集めてすぐに動く。新茶の時期は、皆さん寸暇を惜しまずに動きます。

鹿児島の場合

鹿児島県の茶市場では、お茶の葉と茶葉をお湯に浸した、カップが回転ずしのように大量に回ってきます。

それを見て業者が、手元の端末に値段を打ち込み送信。最高価格者が落札です。そして、釜炒り茶の「嬉野」では、オークション形式。

落札したい茶の番号が出たら、手元のボタンを連打。最後までボタンを押し続けた人(最高値まで競った人)が落札です。

4月~5月、新茶の時期になると各地の市場の様子が新聞やテレビなどで映されますので、ぜひそちらもお楽しみにされてみてください。

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